屏風浦海岸寺和讃

屏風浦海岸寺和讃

いっちょううん

石橋   一雕雲   作

きみょうちょうらいへんじょうそん
帰命頂禮遍照尊

なんえんぶだいのようこくの
南閻浮提の陽谷の

かめいこつじのふるさとは
仮名乞児の故郷は

たまもよるてふさぬきがた
玉藻帰るてふ讃岐潟

よしょうひをかくすのうらざとに
櫲樟日を蔽すの浦里に

そのなにしおうかいがんじ
その名にし負う海岸寺

だいしほっけのきょうもんを
大師法華の経文を

いちじいっしゃくうつしては
一字一石写しては

おさめしやまをきょうのうざん
納めし山を経納山

しゃかのせいちになぞらえて
釈迦の生地になぞらえて

かびらえいんともなづくなり
迦毘羅衛院とも號くなり

やだにあまぎりいつつのたけを
弥谷天霧五つの嶽を

めぐるびょうぶとみたてして
遶る屏風と見立して

びょうぶがうらとももうすなり
屏風ヶ浦とも申すなり

ほうきよねんのみなづきに
寶亀四年の六月に

たまよりごぜんがゆめのうち
玉依御前が夢の裡

いこくのひじりそのはらに
異国の聖その胎内に

やどるとみてはおどろきぬ
宿るとみては驚きぬ

さんぞうだいしのはつしゅっけ
三蔵大師の初出化

うぶゆのいどやいしだらい
産湯の井戸や石盥

ゆでかけまつにおえなづか
湯手掛け松に御胞衣塚

いまにきゅうせきのこすなり
今に旧跡残すなり

ちょくしげこうのみぎりには
勅使下向の砌には

してんのまもるおさなごに
四天の守る稚子に

うまもおそれてひざをおり
馬も畏れて膝を折り

よにこまどめいわとつたふなり
世に駒止め岩と伝ふなり

ろじょうにあそぶおさなごは
路上に遊ぶ稚子は

どろをかためてほとけとし
泥を固めて仏とし

あわすもみぢのそのおては
合わすもみぢのその御手は

さんみつかじのすがたなり
三密加持の姿なり

ゆめにはれんげのうてなにざして
夢には蓮華の台に座して

しょぶつとかたるとうともの
諸仏と語る貴物

ふぼもうやまいとうとべり
父母も敬い尊べり

しらかたびょうぶがうらにたつ
白方屏風ヶ浦にたつ

だいしうぶやのおくのいん
大師産屋の奥の院

しじゅうにやくのおんとしに
四十二厄の御歳に

てずからきざむちごだいし
手ずから刻む稚児大師

きりりとむすぶくちもとは
きりりと結ぶ口元は

だいじんきこつのそうなりき
大人奇骨の相なりき

だいどうにねんにきざまれし
大同二年に刻まれし

ぼんじはこうみょうしんごんの
梵字は光明眞言の

いまにつたわるおかじいし
今に伝はるお加持石

いんせきなりとのいわくあり
隕石なりとの曰くあり

うゐのおくやまきょうこえて
有為の奥山今日越えて

はちじゅうはっしょのごゆいせき
八十八処のご遺跡

どうぎょうににんのたびすがら
同行二人の旅すがら

だいしはつしゅっけのいんねんの
大師初出化の因縁の

れいせきもうずるひとおおし
霊蹟詣ずる人多し

おもへばわれらひのもとを 
思へばわれら日の本を

かりのやどとしすみながら
仮の庵とし住みながら

しんじんむりょうのおんじひの
深甚無量の御慈悲の

おかげうけざるひともなし
御蔭受けざる人もなし

だいじょうぼさつのみおしえは
大乗菩薩の御教えは

そうぞくぼんしょうへだてなく
僧俗凡聖隔てなく

しゅうしきょうもんしゃべつなし
宗旨教門差別なし

じしょうくうなるちえのうみ
自性空なる智慧の海

だいしをしたうもろびとの
大師を慕う諸人の

わすれがたみのふるさとは
忘れ形見の古里は

しこくじょうちょがゆかしくも
四国情緒がゆかしくも

いまにかわらぬかいがんじ
今に変わらぬ海岸寺

ありがたやありがたし
有難や有難し

なむだいしへんじょうそん
南無大師遍照尊

ししんらいはいくようせん
至心に禮拝供養せん

だいしにじゅうごかじょうの
大師二十五箇条の

ごゆいごうにこそありければ
御遺告にこそありければ

とそつのてんにおはします
兜率の天におはします

みろくげしょうのそののちに
弥勒下生のその後に

よしょうのきゅうせきおとなひて
櫲樟の旧跡訪ひて

びょうぶがうらのうみとそら
屏風ヶ浦の海と空

なつかしむとぞおもわるる
懐かしむとぞ思はるる

ありがたやありがたし
有難や有難し

むすぶえにしのつたかづら
結ぶ縁の蔦かづら

ふるさとおもはぬひとはなし
故郷思はぬ人はなし

ぜんいんぜんがのかほうにて
善因善果の果報にて

ぼだいをもとむひとびとは
菩提を求む衆生は

えこうのくどくめぐりきて
廻向の功徳巡り来て

ふくとくちえのかてをつみ
福徳智慧の資糧を積み

じょうたいぼさつのすえのよに
常啼菩薩の末の世に

ぶっかよけいにあずからん
佛果余慶に与らん

りゅうげさんえのせっぽうに
竜華三會の説法に

ともにあはんとほっすれば
倶に遇はんと欲すれば

きこんをおこすいちじょにと
機根を発す一助にと

つづりてあらあらわさんとす
綴りてあらあら和讃とす

なむだいしへんじょうそん
南無大師遍照尊

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