眼の霊験

眼の霊験

 私はずいぶんと長い間、眼を患い、ご霊験をうけし前は、ほとんど失明の状態でございました。
 このままでは、夫の世話どころか、自分のことすらままなりません。
 私は自分のこの身の有様を憂えて悶々として日々を送っていました。そんな時です。私は故郷からの便りをききました。きいたといいますのは、その手紙を夫によんでもらったのです。かいつまんで申しますと、私の眼のことを知った故郷の父母が、ご霊験あらたかな海岸寺奥の院のお大師さまへ願をかけて月参りをしているから、お前のほうでもやれということだったのです。
 海岸寺といえば、幼き頃、父母に連れられて何度かお参りにいった寺であります。閉じられたままのまぶたの奥には、その境内の様子がありありと思い出されてきます。
 私は故郷の海岸寺さまの方へ向き、毎日毎日この遙かなる朝鮮の地より祈願をこめていました。
 するとどうでしょう。ご利益むなしからずして全快したのでございます。真に有難うございました。
 御礼として真鍮製蝋燭立一対を持参奉納致します。
 大正十二年二月廿日
 朝鮮京城府宮井洞一番地
  李王職庶務課勤務監守
    田淵増太郎妻 はる

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